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BSCを活かした医師マネジメント/医師マネジメントレポートvol.04

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 ホワイトペーパー

弊社ではこれまで1,400件以上の病院経営コンサルティングに携わり(2021年9月時点)、うち医師人事制度構築については、110件以上のご支援(2021年4月時点)をして参りました。

こうした中で体験してきた、病院経営のトレンドをまとめてみたいと思います。今回は、BSC(バランスト・スコアカード)を活用した病院経営の視点について、見解をお伝えします。

BSCと医師人事制度

BSC(バランスト・スコアカード)は、ABC(活動基準原価計算)、EVA(経済的付加価値 )と並んで1990年代の管理会計の3大発明と言われています。多くの上場企業でも導入されている管理会計手法で、「一般社団法人日本医療バランスト・スコアカード研究学会」が存在するように、医療業界でもポピュラーな存在です。毎年の事業計画策定にBSCを採用している病院も多いと思います。

ところで前回のレポートでは、多職種協働を実現する医師マネジメントについて見解を述べさせていただきました。
【多職種協働を実現する医師マネジメント】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-organization-91195/

このレポートでご紹介しましたが、弊社が医師人事制度を設計する場合、医師の人事評価制度における「定性的な評価」では、「多職種による多面評価(360度評価)」を導入することが大半です。そしてこのときの評価項目は、BSCの4つの視点を軸に設計するようにしています。

ご存じのとおり、BSCでは「財務の視点」「顧客の視点」「内部プロセスの視点」「学習と成長の視点」の4つの視点を因果連鎖させた戦略マップと、それを実現するKPIをモニタリングすることで、戦略を実現していきます。

医師人事制度を構築する際は、この4つの視点を病院用にアレンジし、「経営貢献の視点」「患者の視点」「チーム医療の視点」「能力開発の視点」と読み替えます。そして、各視点2~3個の評価項目を設定していきます。合計10項目前後の「定性的な評価項目」になります。

また、BSCを事業計画に取り入れている場合は、「定量的な評価」においても、BSCの4つの視点に基づいたKPIをMBO(目標達成度評価)に流用します。その結果、病院の事業計画と整合した、定性的な評価と定量的な評価が設計されます。

このように事業計画と評価システムが整合することは重要で、企業経営においても、経営企画部門と人事部門が別部署であるために組織力が発揮されない、ということが見受けられます。

BSCを軸にすれば、事業計画(戦略)と医師人事制度(組織システム)が整合します。事業計画においてBSCの採用をお勧めしているのは、このためです。

BSC導入のポイント

一般的なBSC導入では、まずSWOT分析とSWOTクロス分析を行います。S(内部環境の強み)とO(外部環境の機会)を組み合わせたSO戦略(内外のポジティブ要素を組み合わせた積極戦略)などの重要成功要因を特定し、それを実現するように4つの視点を設定します。

弊社では病院や介護施設で、数多くのSWOT分析やSWOTクロス分析のワークショップ研修をご支援してきました。その経験から考えると、医療・介護業界での重要成功要因の基本は「顧客の視点」です。「●●エリアの地域医療に貢献する」「●●の疾患領域を充実させる」など、患者や利用者への貢献が掲げられることが多いです。

人事部など間接貢献を行う事務部門では「スタッフの定着率を高める」などが掲げられることがあります。しかし間接貢献部門にとっての顧客は院内スタッフですので、間接貢献部門の方針も「顧客の視点」だと言えます。

そのため、BSCの戦略マップ作成にあたっては、まず「顧客の視点」を設定し、その結果としての「財務の視点」を考えます。そして「顧客の視点」を実現する「内部プロセスの視点」、「内部プロセスの視点」を実現する「学習と成長の視点」という順に思考展開していきます。

このようにすることで、4つの視点の因果が連鎖していきます。ここでポイントとなるのが、「内部プロセスの視点」は、あくまでも「顧客の視点」から逆算して考えるということです。

患者体験価値を高める内部プロセス

以前のレポートで、「患者体験価値を実現する医師マネジメント」について見解を述べさせていただきました。
【患者体験価値を実現する医師マネジメント】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-organization-86913/

患者体験価値というのは、まさに「顧客の視点」です。「患者体験価値を高めるための内部プロセスをどう構築するか?」という思考が重要になってくるのです。

現在、弊社ではリーンマネジメントの支援も行っていますが、リーンマネジメントも、この「患者体験価値を高めるための内部プロセスをどう構築するか?」を思考する手法です。
【リーンコンサルティング】
https://nihon-keiei.co.jp/service/hospital/quality-hosp/lean-consulting/

リーンマネジメントは、1980年代にアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らによって開発されました。トヨタ生産方式の理論を取り入れ、現場の声、能力を最大限に引き出しながら、科学的なPDCAサイクルを展開していきます。

リーンマネジメントでは、まずVSM(バリューストリームマッピング)というツールで、顧客価値を可視化します。そしてVSMから逆算してワークフロー図を作成し、内部プロセスを最適化していきます。

まさに「患者体験価値を高めるための内部プロセスをどう構築するか?」という命題に取り組んだ手法です。そのため、BSCを導入している病院に医師人事制度の導入がフィットするように、医師人事制度を導入している病院には、リーンコンサルティングも相性がいいようです。

BSCのアップデート

ところで、多くの病院で導入されているBSCですが、導入から時間が経過する中で形骸化して、年度末に経営企画部門だけで次年度BSCを作成しているケースが見受けられます。本来は、医師人事制度と整合させたり、リーンマネジメントの視点も取り入れて働き方改革や労働生産性向上に活かすことができる手法なのですが、もったいない使い方をしていると思います。

では、BSCを活かすにはどうすればいいのでしょうか。ポイントになるのは、KPIの設定です。

前述したように戦略マップ作成では、「顧客の視点」からスタートし、「財務の視点」「内部プロセスの視点」「学習と成長の視点」へと展開していきます。しかしKPIの設定では、順番を変えて「財務の視点」から始まり、「学習と成長の視点」へと順番に設定していくようにアドバイスしています。これは、戦略マップの作成手順とKPIの設定手順では、思考順序を変えた方が論理的に正しいと考えるからです。

病院のP/Lの収支ツリーを考えてみてください。利益は売上と費用に分解でき、売上は数量と単価に分解されます。数量は患者数、単価は診療単価です。

そして急性期病院における診療単価は、平均在院日数や手術・処置件数などに大きく影響されます。これを患者体験価値と照らし合わせてみると、患者数は「どれだけ多くの患者を受け入れたか」、平均在院日数は「どれだけ早く退院できたか」、手術・処置件数は「どれだけ適切な医療資源を投入したか」。まさに患者体験価値を表す指標です。

何が言いたいかというと、利益・売上・費用は言うまでもなく「財務の視点」ですが、患者数・平均在院日数・手術件数などは、まさに「顧客の視点」。患者を増やすための地域連携の取り組みなどは「内部プロセスの視点」です。このように収支ツリーの階層は、BSCの4つの視点と驚くほど整合してくるのです。ですので、KPIを設定する際には、「財務の視点」から逆算して設計していくことが理にかなっているのです。戦略マップの策定は「顧客の視点」から考え、KPIの設定は「財務の視点」から考える。順番を変えるのは、このような理由からです。

今回はBSCの本質についてご紹介してきましたが、もし毎年の事業計画でBSCを採用しているのでしたら、各項目や指標を埋めるだけが目的になっていないか見直してみてください。本質を理解して、SWOT分析・SWOTクロス分析、そして戦略マップ・KPI設定を行えば、患者体験価値向上と収益性向上に必ずや資するはずです。

弊社では、このようなBSC策定ワークショップ研修などもご提供、ご好評いただいております。事前ワークを組み合わせると、1日(1回)あれば、戦略マップやKPI設定までが可能です。それをもとに医師人事制度やリーンマネジメントと連携すると、さらなる相乗効果も期待できます。

あらためてBSCを再考し、アップデートしてみてはいかがでしょうか?

「医師マネジメントの専門サイト」も、ご活用ください

このレポートの解説者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社 日本経営 コンサルタント

大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007 年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012 年病院経営コンサルティング部門に異動。
現在、組織人事コンサルティング部の副部長として、医師マネジメントシステムの高次化に取り組む医師人事分科会を統括。2005年西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、 2017 年グロービス経営大学院 MBA コース修了。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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